バベル
第79回アカデミー賞において6部門7ノミネートを果たした注目作ということで気合を入れて映画館で見てきました。
この映画バベルの背景には、旧約聖書の創世記に書かれた「バベルの塔」の話があり、それは、神に近づこうと天を目指す人々に“言語をバラバラにする”という神の罰が下ったというお話。現代社会に置き換えれば、各分野でハイテクを駆使して神にも近づこうとしている人間だが、“国境の壁”“言葉の壁”“障害者の壁”“家族間の壁”など、様々な形でコミュニケーションの壁が存在しているということでしょう。
しかし、「それが現実だ」と言われているような映画でもあります。見終わった後に涙するほどの感動もありませんでしたし、スカッとする作品でもありません。まぁ、ストーリーとしては結果的に救われる雰囲気もありますが、結局、「世界はこんなに荒んでいるんだ」と、現実を突きつけられる作品だと思いました。
ロケ地に、“アメリカ”“モロッコ”“メキシコ”“日本”を選んだのは、世界の縮図として選択されたのだと思います。世界中の人々の心の中は孤独で悲しくどうしようもない壁に阻まれているんだという・・・。ロケ地ごとに撮影手法を変えているのも、世界のバラバラ感を感じます。今、私たちが笑っている間にも、世界では途方も無い悲しみに暮れている人がいるということさえ気付かせてくれます。
日本では菊地凛子さんが日本人として49年ぶりに助演女優賞にノミネートされたことが話題になりましたが、実際には主要部門の受賞はならず、ノミネートのみに終ったのも事実。
それは、見ればなんとなく納得。身体を張った(張りすぎ?)凛子さんの演技は「気合入ってるなぁー」と思いますし、今作のチエコ役(凛子さんの役柄)のオーディション結果が出る前から手話を勉強したり体重を増やしたりと、役作りに励んでいたようで、気合の入り方が伝わってきますが、脚本的に、「このシーンは本当に必要なのか?」と思わせるシーンが結構ありました。
個人的にはメキシコ編の家政婦アメリア役のアドリアナ・バラッザ(彼女も助演女優賞ノミネート)の演技が素晴らしいと思いました。それから、現地の素人さんであろうモロッコガイド役のモハメド・アクサムの役柄は唯一素直な感動と清清しさを与えてくれました。
--ここからネタバレ?--
この映画は、あたかもプラッド・ピットが主演のように思いますが、実際は、各ロケ地ごとに主役と助演がいて、各ロケ地の出演者同士の共演はなく、大きく分けて3つ(もう少し分けると4つ)の話が、実は(少し)結びついているという感じです。だから菊地凛子さんは完全に主役級です。モロッコ編とメキシコ編2本と日本編の4つの話が、時間の流れを前後して描かれている感じです。一つ一つは単純な話なので、時間を前後させることで複雑な感じを与えているのだと思います。
最初にモロッコの幼い兄弟が、遊び半分に銃でリチャード(ブラッド・ピット)の乗ったバスを狙い、リチャードの奥さんスーザン(ケイト・ブランシェット)に当たってしまう(モロッコ編1)・・・この後にメキシコ人の家政婦アメリア(アドリアナ・バラザ)とリチャードの電話での会話になりますが、このメキシコ編は時間的には最も遅い時間の話。この後にくるスーザンが撃たれた直後からのモロッコ編2は、モロッコ編1の後に続くのが本来の時間の流れ。なので、この映画のエンディングに近い部分でのリチャードからアメリアへの電話は、最初のアメリアが受けた電話と同一。ただ、同じ会話内容が、アメリア側とリチャード側で表現されている。同じ内容でも、お互いの状況の違いを比べると面白いかもしれない。
日本編は、微妙な関わり方で、本来、全く別の話といっても良いくらいだと思います。過去に母親を自殺で亡くした聾唖の女子高生チエコ(菊地凛子)の父親ヤスジロー(役所広司)が過去に所有していた猟銃(モロッコでのハンティングでその時のガイドにプレゼントした)が、モロッコの兄弟の手に渡って事件に使われた・・・という展開ですが、事件に深く関わってくることも無く、ちょっと物足りなさを感じます。どちらかというと、親子間の愛を表現しようとした別の作品という感じがします。ただ、親子間の愛以上に表現しようとしたと思われる、聾唖の少女の疎外感や孤独感、愛への飢えなどが、ただ単に性衝動に駆られる女子高生というふうにも見えてしまうのが残念。実際、そういうシーンが必要以上に多かったと思います(いくらなんでも、こんな女子高生はおらんやろ・・・と思うくらい)。それと同じく、冒頭のモロッコ編での少年の行為の描写も、必要かどうか疑問・・・。
あらすじは、
モロッコで羊を襲うジャッカルを撃つために父親から猟銃を渡された2人の兄弟。彼らはお互いの意地の張り合いで射撃の腕を競い、弟はツアーバスに向けて猟銃を発砲した。その銃弾はバスに乗っていたアメリカ人リチャード(ブラッド・ピット)の妻スーザン(ケイト・ブランシェット)の鎖骨上部に命中してしまう。これはテロだと騒ぐ乗客たち・・・。
アメリカでは、息子の結婚式を明日に控えたメキシコ人の家政婦アメリア(アドリアナ・バラlッザ)がリチャードとスーザンの2人の子供の面倒を看ていた。アメリアはリチャードからの知らせを受け、突然の出来事に思い悩む。どうしても結婚式に出席したい彼女は、2人の子供を連れてメキシコへ・・・。
一方、日本には、過去に自殺した母親のことで父親ヤスジロー(役所広司)とギクシャクしている聾唖の女子高生チエコ(菊地凛子)がいた。自分は誰にも愛されないのかと悩んだ彼女は、性的行動でしか思いを伝えられなくなっていた・・・。
言ってしまえば、大きく分けて3つの話を1本の映画に凝縮した感じで、1つ1つが中途半端になっていると言えなくも無い感じです。ですので、観客の想像力もそれなりに必要な作品だと思いますし、それだけに、見る人によって感じ方の違う作品でもあるのではないでしょうか。
旧約聖書のバベルのお話を踏まえれば、重いテーマでもありますし、現代人が抱えている問題に違いないと思いますが、「本当の世の中はもう少しマシだよ」と願いを込めて反論したくなる映画でもありました。
ただ、救いは、最後にはスーザンは一命をとりとめ、リチャード夫妻の子供達も無事だったことと、リチャードに親身になって接してくれたモロッコガイドがとても気持ちのいい人だったことです。
それでも、アメリアは強制送還され、ヤスジローとチエコの話は微妙なエンディングで、問題を残した終り方なのだろうと感じました。
個人的には、パンフレットでも明かせないと書いてありましたが、チエコに優しく接する刑事(二階堂智)が最後にチエコからもらった手紙の内容がどうしても気になります。また、チエコの母親の自殺の理由など、比較的、日本編は謎が多いです。
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